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教えすぎると、考えなくなる?

 コ ラ ム 

2026年6月12日

大人の「正解」が子供の考える力を奪うとき

「わからない」「やって」が早い子供たち


バッティングセンターで、お父さんが熱心にフォームを教えている場面を見かけました。


「違う違う、そうじゃない」

「だから言ったでしょ、ボールをよく見て」

「なんで今の球で振るの」


お父さんは真剣です。おそらく野球も上手な方なのだと思います。でも、子供の表情からは、楽しさが消えていました。


工作でも、似た場面を見かけることがあります。「あー、そこ切っちゃダメ」「貸して、お母さんがやったほうが早いから」と、つい口も手も出てしまい、最後は親が一人で完成させているパターンです。


どちらの親も、子供のためを思って関わっています。そこは疑っていません。


ただ、さきに結論を言うと、できる大人がそばで答えを出し続けると、子供は自分の頭を使う習慣を失いやすくなります。それが続くと、難しい課題を前にしたときに無気力になる子もいます。



難しい課題の前で、子供は2タイプに分かれる


当学童塾で難しいルールのパズルに挑むとき、子供たちは大抵、次の2種類のタイプに分かれます。


① よくわからないなりに、まず手を動かして試してみる子供

② よくわからないと感じた瞬間に手が止まり、「わからない」「無理」「やって」と助けを求める子供


(以前のコラム「難しく感じると思考を放棄?」でも、同じ分かれ方を取り上げました。)


タイプ②の子は性格の問題だと捉えられることが多いのですが、私は、経験の積み重ねで身についた習慣である部分が大きいと考えています。


「考えても意味がない」を学習してしまう ―― 学習性無力感


心理学に「学習性無力感」という有名な概念があります。自分が何をしても結果が変わらないという経験を繰り返すと、自分の行動で結果を変えられる状況になっても、もう試そうとしなくなる現象です(Seligman & Maier, 1967)。


子供を対象にした研究でも、失敗が続いたとき、「自分にはできない」と捉えて解き方まで崩れていく子と、やり方を変えながら粘れる子に分かれることが示されています(Diener & Dweck, 1978)。


ここからは私の解釈ですが、「教えすぎ」はこれと似た構造を持っていると考えています。


大人がすぐに答えを出す環境では、自分が考えても、考えなくても、最後は大人が正解を出してくれます。つまり、自分の思考が結果につながるという経験が積み上がりません。子供の側からすると、頭を使う意味がないのです。


「考えても意味がない」が習慣になった子は、難しい課題に限らず、ほかの場面でも最初から大人を呼ぶことが増え、傍から見ると、どこか無気力な感じの子に見えてくることがあります。


実際、親が手や口を出しすぎる関わり(子供がまだ自分でやれているのに介入する関わり)は、子供の自己調整力の低さと関連することが報告されています(Obradović, Sulik & Shaffer, 2021)。


逆に、子供の考える過程を尊重する関わりは、意欲や自己調整の力と結びついています(Grolnick & Ryan, 1989)。


通訳がずっと横にいると、言葉は覚えない


海外に行くときを想像していただくとわかりやすいと思います。通訳の人がずっと横にいてくれたら、現地の言葉はまず覚えません。困ったら通訳が何とかしてくれるからです。


一人で行くしかなければ、片言で話し、相手の表情を読み、看板から推測し、間違えながら試します。頭を使わざるを得ないから、身についていくわけです。


できる大人がそばにいること自体は悪くありません。問題は、その大人が「すぐ正解を出す通訳」になってしまうことです。


宿題の横で、よくあるやり取り


子供:「この問題わからない」

親 :「どれ。……ああ、繰り上がりでしょ。ここが10を超えてるんだから、1繰り上がるの。ほら、ここに1書いて」

子供:「うん」

親 :「次。……違う、そこも繰り上がるでしょ。さっき言ったばかりじゃない」

子供:「……」

親 :「もういい、見てて。こうやって、こう。ね? わかった?」

子供:「わかった」

(翌日も、子供は「わからない」と同じ種類の問題を持ってくる)


親としては教えたつもりでも、子供の中に残ったのは「わからないと言えば、親が解いてくれる」という経験だけ、ということがよくあります。このやり取り自体は、どこの家庭にもある光景だと思います(私も気を抜くとやってしまいます)。


では、どう関わればよいのか。具体的な声のかけ方は子供の性格によってかなり変わるので、ここでは方向性だけお伝えします。


ポイントは、答えではなく問いを返すことです。今どこまでわかっているのかを子供自身に言わせる。次の一歩を子供に選ばせる。間違えても正解を言わず、見直しを促す。


時間はかかります。正直、教えたほうが早いです。でも、考える部分が最後まで子供の側に残ります。


実際、親の宿題への関わり方と成績の関係を調べた近年のメタ分析(28研究・約38万人)では、関わり全体としては、成績とむしろ弱いマイナスの関連がありました(Xu et al., 2024)。


成績とプラスに関連していたのは、内容を直接教える関わりや管理ではなく、子供の自律を支えるタイプの関わりです。「親が熱心に教えるほど伸びる」とは限らない、ということです。


手助けの研究でも、有効なサポートは「全部やってあげる」ことではなく、子供が自分でできる部分は残しながら、手に負えない部分だけを一時的に支えることだとされています(Wood, Bruner & Ross, 1976)。


大人は、ときどき「できない人」でいい


当学童塾でも、子供がパズルに詰まったとき、すぐに答えを教えないようにしています。


「先生もすぐにはわからないなあ」

「どこまでは合ってそう?」

「一回、ここまでやってみようか」


こう関わると、子供は「大人が答えをくれる」ではなく、「自分も考えるしかない」と感じます。


これは放置とは違います。投げ出してしまわない距離にはいる。でも、答えは奪わない。困っている時間を、すぐに消してあげない。この距離感が大事だと考えています。


最初は、わからない時間に耐えられず、怒ったり投げ出したりする子もいます。でも、悩む時間に少しずつ慣れた子は、間違えても終わりではないこと、考え続ければ少し進むことを、経験として知っていきます。自分で解けたときのうれしさも知ります。


「考えれば変わる」という経験の積み重ねは、「考えても意味がない」のちょうど逆側にあるものです。


その手助けは、誰のためか


子供が困っていると、助けたくなります。自然なことです。


ただ、その手助けは本当に子供のためなのか。それとも、困っている我が子を見ていられない、大人の側の不安を先に解決しているだけなのか。ここで一度立ち止まれるかどうかが、分かれ目だと考えています。


子供に残したいのは、目の前の一問の正解ではなく、わからないときに考える力、失敗しても試し直す力です。そのためには、大人は少しだけ「できない人」になって、隣で一緒に悩むくらいがちょうどいいのかもしれません。


本コラムが皆様のご参考になれば幸いです。


参考文献


Seligman, M. E. P., & Maier, S. F. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 74(1), 1–9.

Diener, C. I., & Dweck, C. S. (1978). An Analysis of Learned Helplessness: Continuous Changes in Performance, Strategy, and Achievement Cognitions Following Failure. Journal of Personality and Social Psychology, 36(5), 451–462.

Obradović, J., Sulik, M. J., & Shaffer, A. (2021). Learning to let go: Parental over-engagement predicts poorer self-regulation in kindergartners. Journal of Family Psychology, 35(8), 1160–1170.

Grolnick, W. S., & Ryan, R. M. (1989). Parent Styles Associated With Children's Self-Regulation and Competence in School. Journal of Educational Psychology, 81(2), 143–154.

Wood, D., Bruner, J. S., & Ross, G. (1976). The Role of Tutoring in Problem Solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 17(2), 89–100.

Xu, J., Guo, S., Feng, Y., Ma, Y., Zhang, Y., Núñez, J. C., & Fan, H. (2024). Parental Homework Involvement and Students' Achievement: A Three-Level Meta-Analysis. Psicothema, 36(1), 1–14.



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