

コ ラ ム
2026年9月15日
子供が親の言うことを聞かなくなる一因
「片づけられないなら、もうおもちゃは買わないからね」
「ご飯をちゃんと食べないと、おやつはないからね」
「静かにできないなら、もうこのお店には来られないからね」
「宿題が終わらないと、一緒におでかけできないからね」
子供と大人が一緒にいる場所に行くと、こういう会話をしばしば耳にします。
子育てをしていればありふれた光景だと思いますが、私は他人事ながら「これ、ほんとなのかな?」と感じることが多いです。
言うこと自体は、悪くありません
「○○できないなら△△だよ」と伝えること自体を、私は悪いとは思っていません。
理由を説明して何度か注意する。
それでもできないときに、これからどうなるかを予告する。
そして、本当にそうする。
ここまで揃っているなら、子供にとってはむしろ分かりやすいルールです。
問題は、大人が実行するつもりのないことまで、その場を収めるために言ってしまうことです。
「もう二度と買わない」
「もう連れてこない」
「明日のお出かけは中止」
強い言葉なので、その瞬間は効きます。
でも結局おもちゃは買うし、同じ店にはまた行くし、翌日は普通に出かける。
このとき子供が見ているのは、言葉の中身だけではありません。
この大人は、言ったことを本当にやる人なのかどうか。
そこも一緒に見ています。
「待っても無駄」を経験した子は、待たない
マシュマロ・テストという有名な実験があります。
目の前のお菓子を我慢して待てたら、あとで倍もらえる、というものです。
この実験の前に、ひと工夫を加えた研究があります。
子供に「もっといい道具を持ってくるね」と約束して、実際に持ってくる大人と、約束したのに手ぶらで戻ってくる大人。そのあとで、同じテストをしてもらいました。
約束を守った大人のもとでは、子供たちは平均12分ほど待ちました。
約束を破った大人のもとでは、平均3分ほどで食べてしまいました(Kiddら, 2013)。
この差は、もともとの我慢する力の違いだけでは説明できません。
実験で変えたのは、直前に経験した「この大人は当てになるかどうか」だったからです。
待てない子と言われる子供の中には、我慢する力が弱いのではなく、待つ価値がないと判断している子がいる。
学童で子供たちを見ていても、思い当たるところがあります。
別の研究では、もう少し気になることが分かっています。
その研究で子供が見せられたのは、自分との約束ではありません。
目の前の大人が、別の大人に対して不誠実にふるまう場面です。
それを見ただけで、そのあとその大人が自分にした約束を、子供は待たなくなりました(Michaelson & Munakata, 2016)。
子供は、自分に向けられた言葉だけを見ているわけではない、ということです。
学ぶのは「真に受けなくていい」という態度
予告した通りにならない。
警告された未来が、来ない。
これを繰り返し経験した子供がまず学ぶのは、
「この人はどうせ本気ではない」
ということだと思います。
怒っているように見えても、最後までやらない。
強い言葉ほど、実際には何も起きない。
それなら真に受ける必要はない。
子供の側から見れば、合理的な結論です。
そして、これは親のところだけで止まるとは限らないのではないかと思っています。
子供が、大人の言葉を「親の言葉」「先生の言葉」「お店の人の言葉」と、大人が思うほどきれいに切り分けて受け取ってくれるとは限りません。
一番身近な大人の言葉が当てにならないのなら、ほかの大人の強い言葉についても「本当にそうなるのかな?」と割り引いて聞くようになっても、おかしくないと思います。
やっかいなのは、予告がときどき実行される場合です。
いつも実行されるわけではない。でも、ときどき本当に実行される。
そうなると子供は、言葉そのものよりも、
「今日は本気かな」
「どこまでやったら本当に怒るかな」
と、大人の本気度を読むようになります。
最初の一言では動かず、相手の表情や声、機嫌を見ながら「まだ大丈夫」と判断する。
そういうやり取りを繰り返していれば、「まずは従わず、大人がどこまで本気かを見る」という態度が身についても不思議ではありません。
いつも空振りする予告より、ときどきだけ本気になる予告の方が、この読み合いを長引かせます。
そして、ここが一番こわいと思っているのですが、この学習に大人の都合のいい例外をつけてもらうのは難しいと思います。
「もう二度とおもちゃは買わない」
と、
「その道は車が来るから絶対に渡らないで」
は、子供にとっては、同じ人から出てくる同じ形の強い言葉です。
前者を何十回も空振りさせておいて、後者だけは真剣に受け取ってもらう、という都合のいい話はありません。
そして私は、その延長には、親以外の大人の言葉も並んでいく可能性があると思っています。
ただし、一度守れなかったら終わり、ではありません
親も人間ですし、事情が変わることもあります。
幼児94人を1年間追った研究では、力で押さえつけるような対応が多いことや、親の対応の一貫性が低いことが、その後のかんしゃくの悪化を予測していました(Moら, 2023)。
また別の研究では、親の対応について、
「一回のもめごとで最後までやり切ったか」
よりも、
「別の日でも、似た場面には似た対応をしているか」
の方が、その時期の子供の行動と結びついていました(Van den Akkerら, 2024)。
一回できなかったことより、実行しない予告が「いつものやり方」になっていることの方が問題だ、ということだと思います。
強い言葉より、実行できる大きさに
「片づけてね」より「片づけないなら全部捨てるよ」の方が、その瞬間の効き目は強い。
だからつい使いたくなります。
でも、実行できないほど強い言葉ほど、実行されません。
そして「どうせ捨てない」を学んだ子には、次はもっと強い言葉が必要になります。
行き着く先は、大人が自分で自分を追い込む消耗戦です。
だから私は、言葉を強くするよりも、実行できる大きさまで内容を下げる方がいいと思っています。
「片づけないなら、もうおもちゃは買わない」ではなく、
「今片づけられないなら、このおもちゃは今日はここまでにしよう」
地味ですが、大人が確実に実行できます。
子供にとっても、何をしたらどうなるかがはっきりします。
「言うことを聞かせる」ことが目的になっていないか
子供と接していると、「どう言えばこの子は動くだろう」と考えてしまう瞬間があります。
私自身、気をつけないといけないところです。
ただ、その意図は、こちらが思っているより早く見抜かれます。
言葉の技術で動かそうとするほど、言葉そのものは軽くなっていきます。
言ったことと、そのあとの行動をできるだけ揃える。
実行できないことは、最初から言わない。
事情が変わってできなくなったら、「さっきはこう言ったけど、こういう理由で変えるね」と説明する。
子供は、大人が何を言ったかだけを聞いて育つわけではありません。
そのあと実際に何をしたのかまで含めて、何度も見ています。
子供を、うまく言えば思い通りに動く相手としてではなく、一人の人間として、言葉を交わす相手として接する。
学童で子供たちと関わる私自身も、忘れないようにしたいと思っています。
参考にした研究
Kidd, C., Palmeri, H., & Aslin, R. N. (2013). Rational snacking: Young children's decision-making on the marshmallow task is moderated by beliefs about environmental reliability. Cognition, 126(1), 109–114.
Michaelson, L. E., & Munakata, Y. (2016). Trust matters: Seeing how an adult treats another person influences preschoolers' willingness to delay gratification. Developmental Science, 19(6), 1011–1019.
Mo, J., van den Akker, A. L., Leijten, P., & Asscher, J. J. (2023). Parental discipline techniques and changes in observed temper tantrum severity in toddlers. Research on Child and Adolescent Psychopathology, 51(4), 571–582.
Van den Akker, A. L., Leijten, P., Hoffenaar, P., & Gardner, F. (2024). Using daily diary assessments to better understand the role of parental consistency in the development of externalizing child behavior. Research on Child and Adolescent Psychopathology, 52(1), 79–92.
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