

コ ラ ム
2026年5月29日
「好きな遊び」の中で、考える力は育つ
KASICOの自由時間をのぞくと、子どもたちは実にいろいろな遊びをしています。
ブロック、すごろく、トランプ、ごっこ遊び、人形遊び、工作……。
しばらく見ていると、遊びの「選び方」に、子どもごとの傾向が見えてきます。
ルールや勝ち負けのある遊びに夢中になる子もいれば、ごっこ遊びや人形遊びに、ずっと熱中する子もいます。
後者は、印象としては女の子に多いように感じます。
好きな遊びで、出会うものが変わる
すごろくやトランプ、ボードゲームのようなルールや勝ち負けがある遊びには、最初から「順番」「数の大小」「条件」「勝つための作戦」が含まれています。子どもは、遊んでいるだけで、自然とロジックに触れています。
実際、1から10までの数が一列に並んだボードゲームで遊んだ子は、数の大きさの理解が伸びたという報告もあります(Ramani & Siegler, 2008)。
一方で、ごっこ遊びや人形遊びにばかり集中する子は、こうした数字やルールに出会う回数が、結果として少なくなりがちです。
パズルやブロックのような、空間を使う遊びに触れる回数も少なくなりやすい、という傾向が報告されています(Jirout & Newcombe, 2015)。
念のためですが、これは「女の子は数字が苦手」という話ではありません。能力の差ではなく、出会う機会の差です。
それでも、好きな遊びは変えなくていい
では、数字ゲームを無理にやらせればいいのかというと、そうではありません。
本人が夢中になっているものを取り上げて、苦手な遊びに引っぱっても、遊び自体がつまらなくなってしまいます。
そもそも、ごっこ遊びや人形遊びにも、ちゃんと意味があります。
最近の研究では、4〜8歳の子が6週間、人形で遊んだところ、相手の考えや気持ちを読み取る力が伸びた、という報告がありました。これは男の子でも女の子でも同じように見られています(Gerson et al., 2026)。「相手の立場で考える」ことも、立派な考える力の一つです。
大事なのは、好きな遊びを変えることではありません。
その遊びの「中に」、数や順番、条件を、ほんの少しだけ足してあげることです。
ごっこ遊びに「ちょっとだけ条件」を足す
たとえば、お店屋さんごっこ。
親が先生役になって教える必要はありません。お客さん役として、こんな一言を足すだけで十分です。
「今日は100円以内で買えるものにしよう」 「ごめんなさい、その商品は売り切れです」 「卵が苦手なお客さんが来ました」 「3人分の料理をお願いします」
それだけで、子どもは自然に考えはじめます。
何を選べばいいのか。どの順番で進めればいいのか。相手は何を求めているのか。
好きな遊びのまま、数や条件、相手の状況を扱う経験になります。これは、KASICOの論理クイズで条件を一つずつ整理していく力と、同じものです。
料理も、いい機会になる
料理のお手伝いも同じです。
材料を出す、洗う、切る、量をはかる、混ぜる、焼く、盛りつける。料理には、いつも順番があります。
卵を2個使う。4人分に分ける。半分に切る。数や量も、自然に入ってきます。
家庭での料理中の会話を調べた研究でも、ただ数を言うだけでなく、「次はこれをしようね」と手順を整理する声かけと組み合わさったときに、子どもの数の理解に関わる可能性が示されています(Son & Hur, 2020)。
「これは何個?」とクイズのように問うより、「3人分に分けようか」「先にこれを混ぜてから入れようね」と、作業の流れの中で扱うほうが自然です。
大人の関わりは「少しだけ」でいい
こうした、遊びに大人がほんの少しだけ方向づけを加えるやり方は、近年「guided play(導かれた遊び)」と呼ばれ、注目されています。
自由な遊びと、大人が一から教え込むやり方の、ちょうど中間です。複数の研究をまとめた分析でも、初期の算数や図形の理解などに役立つ可能性が示されています(Skene et al., 2022)。
子どもを管理することではありません。
遊びを壊さない範囲で、少しだけ条件を足す。少しだけ、順番を意識できるようにする。そのくらいの、軽い関わりです。
KASICOが目指していること
KASICOで取り組んでいる論理クイズや数字階段、ナンバーリンク、ブロック系のパズルも、目指しているところは同じです。
答えを早く出すことだけが目的ではありません。
何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか。どこから考えればいいのか。うまくいかなければ、どこに戻ればいいのか。
その、考え方の「型」を身につけてほしいと思っています。
低学年の「土台」が、あとで効いてくる
学年が上がると、勉強は「ただ覚える」だけでは、だんだん難しくなっていきます。
国語では根拠を探す力、算数では条件を式にする力、理科や社会では資料から関係を読み取る力。
そのとき支えになるのが、低学年のうちから積み重ねてきた「考え方の土台」です。
家庭でできることは、問題集を増やすことだけではありません。
好きな遊びに、少しだけ条件を足す。生活の中で、少しだけ順番や量を意識する。そして、子どもが自分で考える余白を残しておく。
それだけでも、考える力は少しずつ育っていきます。
「考える力」は、机の上だけで育つものではありません。子どもが好きな遊びの中にこそ、その入口があるのだと思います。
[参考文献]
Ramani, G. B., & Siegler, R. S. (2008). Playing linear numerical board games promotes low-income children's numerical development. Developmental Science, 11(5), 655–661.
Jirout, J. J., & Newcombe, N. S. (2015). Building Blocks for Developing Spatial Skills: Evidence From a Large, Representative U.S. Sample. Psychological Science, 26(3), 302–310.
Gerson, S. A., Keating, J., Hashmi, S., & Vanderwert, R. E. (2026). Doll play improves false belief reasoning: Evidence from a randomized-control trial. PLOS ONE, 21(3), e0343698.
Son, S. C., & Hur, J. H. (2020). Parental Math Talk During Home Cooking and Math Skills in Head Start Children: The Role of Task Management Talk. Journal of Research in Childhood Education.
Skene, K., et al. (2022). Can guidance during play enhance children's learning and development in educational contexts? A systematic review and meta-analysis. Child Development.
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