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過保護は残酷

 コ ラ ム 

2025年10月9日

失敗させないことが、いちばんの失敗?

・子どもには危ないことが起きないように育ってほしい。

・人生でつまずきそうな場所は、なるべく避けて通らせてあげたい。

・障害は、できるだけ先回りして取り除いてあげたい。



――子育てをしていると、そんな気持ちになることがあると思います。


けれど、こうした「守りたい」という行為が、子ども自身の失敗する経験や、そこから立ち直る力を学ぶ機会を奪ってしまうことがあります。

今回は、タイトルにもあるように「過保護がいかに残酷であるか」について考えてみたいと思います。




過保護とはなにか

過保護とは、子どもが求めてもいないのに、親が先回りしてお世話をしてしまうこと。

言い換えると、本来その子自身が受け止めるはずだった経験や感情を奪うことです。

子どもは、自分で考え、自分で行動し、その結果うまくいかなかったときに「どう立ち上がるか」を少しずつ身につけていきます。

失敗を避けるように守ってばかりいると、その「回復する力(レジリエンス)」が育たないままになります。


心理学者 Ann S. Masten(2014)は、このレジリエンスを「Ordinary Magic(普通の魔法)」と呼び、特別な才能ではなく、日常の中で繰り返す困難や失敗の克服から育つ力だと述べています。

つまり、失敗を経験しない環境では、この“魔法”が育たないということです。




失敗は“練習”である

心理学者 キャロル・ドゥエック(Carol S. Dweck, 2006)は、人は「失敗」を通して学ぶときにこそ**成長思考(growth mindset)**が育つと述べています。

「間違えても、やり直せる」と信じる気持ちは、成功体験からではなく、むしろ失敗からの立ち直り経験によって生まれます。

ところが過保護な環境では、子どもがその“練習”をする機会がありません。

失敗を一度も経験しないまま大人になった子は、社会の中で初めてつまずいたとき、どう立ち直ればいいかわからないのです。

Dweck(2006)の研究でも、こうした「失敗からの学び」が自信や柔軟な思考を育てる重要な要因であると報告されています。




ルソーが説いた「痛みの教訓」

18世紀の思想家 ジャン=ジャック・ルソーは『エミール』(Émile, 1762)の中でこう記しています。

“I shall not take pains to prevent Émile hurting himself; … To bear pain is his first and most useful lesson.”

(私はエミールが自ら傷つくのを防ぐために過剰に気を配ることはしない。痛みに耐えることこそ、彼が学ぶべき最初で最も有益な教訓である。)― Rousseau, J.-J. (1762). Émile, or On Education.



つまり、子どもが「痛み」や「失敗」を避け続けることは、学ぶ機会そのものを奪う行為でもあるということです。

失敗しやすい幼少期だからこそ、小さなつまずきを繰り返しながら「どうすればうまくいくか」を学ぶ必要があります。

親の役割は、先回りして道を平らにすることではなく、子どもが転んだときにどう立ち上がるかを一緒に考えることなのかもしれません。




「見守る勇気」を持つ

どんな人間も、いずれ自立して自分の人生を歩んでいきます。


失敗に対する耐性も、立ち直る方法も知らないまま社会に出る

――それこそが、子どもにとって最も残酷なことです。



子ども時代の「小さな失敗」は、大人になるための安全な練習の場です。

だからこそ、親ができるのは「守る」ことではなく、見守る勇気を持つことなのだと思います。



「私、少し過保護かも」と感じた方は、子どもとの距離を少し見直してみてもいいかもしれません。

近くで見守れるのは、今だけです。この時期にこそ、失敗と立ち直りの練習を重ねる時間を大切にしたいですね。




参考文献

  • Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.

  • Masten, A. S. (2014). Ordinary Magic: Resilience in Development. Guilford Press.

  • Rousseau, J.-J. (1762). Émile, or On Education.

  • Dweck, C. S. (2000). "Self-theories: Their role in motivation, personality, and development". Psychology Press.

    https://psycnet.apa.org/record/2000-03323-000



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