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親は完璧?

 コ ラ ム 

2025年8月6日

親はどうあるべきか?

保護者の方々とお話をしていると、「親なのだから子どもの手本となるよう、完璧にきちんとしていなければいけない」というお気持ちを抱えている方が少なくありません。

もちろん、子どもが自立するまでの道筋をつけるのが親の役目ですから、そのような意識を持つこと自体は大切です。

しかし、その完璧さを追求するあまり自分に過度なプレッシャーを与えてしまい、親御さん自身が疲れてしまうこともあるのではないでしょうか。

実際、「親は完璧であるべきか」という点については、心理学の研究でも完璧主義的な子育てが親子双方にストレスを与え、必ずしも良い結果を生まないことが指摘されています(Russo, 2025)。



私の両親の例

少し極端すぎるとは思いますが、私の両親の例を挙げます。

正直なところ、私の親は完璧とは程遠い人たちでした。その一例を挙げると、


  • 頼んだ用事をしょっちゅう忘れる

  • 子どもに関係する説明会に来ても、一番前の席で居眠りしている

  • 小学校低学年のころ私が勉強の質問をしに行っても、しばらく考えた挙句「ごめん、全然わからない」とギブアップする

  • 懇談に来ても、「私にはわからないから、あなたが先生に答えてね」と全て丸投げしてしまう


…こんな親でした。


でも、このおかげで「自分のことは自分でちゃんとしなければ、結局困るのは自分だ」という意識が、小さいころから自然と育まれたように思います。


一方で、小さいころから両親によく感心された言葉もあります。


  • あなたは私と違ってよくできるね

  • あなたはしっかりしてるなぁ

  • よぉ勉強するなぁ


また、精神的に強く持つべきところ(「やられっぱなしにならない」「自分から行動する」「自分の言ったことや決めたことに責任を持つ」など)については、わりと厳しく言われた記憶があります。


振り返れば、「親は完璧」だなんて、我が家ではほとんど感じたことはありませんでした。

むしろ親はしょっちゅう間違える存在で、「自分がしっかりしてサポートしないと」と子ども心に思っていたほどです。

私の親はわざとそうしていたのかもしれませんが、今では、そういった態度で接してくれていたことをありがたく感じています。



親の不完全さと子どもの自立

こういった我が家の例は特殊に感じられるかもしれません。しかし実際の理論や研究でも、親が必ずしも完璧できっちりしなくても――むしろその方が――子どもが自立しやすいとする考え方があります。

心理学者ドナルド・ウィニコットは「Good Enough Mother(十分に良い母親)」という概念を提唱しました。彼は、親は子どもにとって「完璧すぎない」方が望ましいとし、完璧に子どもの要求に応じ続けるのではなく、あえて適度な不十分さを残すことで、子どもは小さな不満や失敗を経験し、それを自分で乗り越える力を学ぶとしています(Winnicott, 1965)。

この適度な挫折経験は、心理的回復力(レジリエンス)や自立心の発達にも役立つとされています(Seery et al., 2013)。


また、心理学者ブルーノ・ベッテルハイムもウィニコットの考えを発展させ、「良い親」とは「完璧な親」ではなく、ほどよく不完全で子どもに自分で成長する余地を与える親だと述べています。彼は「子育てを上手に行うためには、親は完璧な親になろうとすべきでないし、子どもにも完璧を求めるべきではない」と強調しました(Bettelheim, 1987)。



親の姿は、子どもの自己認識に影響を与える

親が自らの不完全さを認め、失敗も含めて受け入れる姿勢は、子どもの自己認識にも大きな影響を与えます。

たとえばアドラー心理学では、親が完璧を目指しすぎると、子どもも「失敗してはならない」と思い込んでしまい、自信を持ちにくくなると指摘されます(熊野, 2023)。

実際、Scientific Americanによるレビュー記事でも、完璧主義的な親のもとで育った子どもは、失敗への過剰な恐れや自己否定的思考を抱きやすいことが紹介されています(Russo, 2025)。

つまり、「親が完璧でなくてもよい」とする姿勢は、子どもの健全な自己肯定感を育てるうえでも効果的だということです。



そもそも「完璧な親」って何でしょうか?

私たちは親になったからといって、人間が魔法のように別人に生まれ変わるわけではありません。親もまた、一人の不完全な人間です。

ウィニコットが示したように、「親は完璧でなくとも『十分に良い』存在であれば、子どもは健全に育つ」とする考え方は、多くの子育てに悩む親御さんの心を軽くしてくれます(Winnicott, 1965)。

私もまた、自分自身の等身大の姿を見つめながら子どもに向き合い、人生の先輩として「ここは大事」ということや「ここはしっかりしなければならない」というポイントを伝えつつも、子どもが萎縮せず主体的に行動できるような親子関係を築いていくことが大切だと考えています。



おわりに

結局のところ、子どもの人生はあくまで子ども自身が切り開いていくものです。親は所詮そのサポート役にすぎません。

肩の力をもう少し抜いて、今しかないお子さんとの時間を、かけがえのないものとして過ごしていただけたら幸いです。

お互い完璧ではありませんが、それでいいのだと思います。

子育てを通して親も一緒に成長していければ、理想的なのかもしれません。



参考文献

  • Winnicott, D. W. (1965). The Maturational Processes and the Facilitating Environment. London: Hogarth Press.

  • Bettelheim, B. (1987). A Good Enough Parent: A Book on Child-Rearing. Knopf.

  • Seery, M. D., Holman, E. A., & Silver, R. C. (2013). "Whatever does not kill us: Cumulative lifetime adversity, vulnerability, and resilience". Journal of Personality and Social Psychology, 104(1), 129–143. https://doi.org/10.1037/a0031047

  • Russo, F. (2025). "How Perfectionism Hurts Parents and Their Kids". Scientific American. Retrieved from https://www.scientificamerican.com/article/how-perfectionism-hurts-parents-and-their-kids/

  • 熊野英一(2023)『子育て×アドラー心理学!「共同体感覚」を養うアドラー式子育て実践法』新聞科学研究所




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