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「どれくらい?」が数感覚を強くする

 コ ラ ム 

2025年11月12日

あいまいな言葉を“数量化”する家庭の会話術

子どもたちを見ていると、小学校1年生のころにはすでに「数感覚がある子」と「ない子」に分かれていると感じます。

ある子は数字を感覚的にとらえ、算数が自然に得意になっていく一方で、別の子は数字を「覚えるもの」として捉えてしまい、苦手意識を持ってしまう。

この分かれ目は、どうやら早い段階で生まれているようです。


保護者の方とお話ししていると、家庭の中での数字との関わり方に、ほんの少し違いがあることに気づかされます。(もちろんその子自身の特性もありますが。)

今回は、そんな「数感覚」を家庭でどう育てられるか、特に「どれくらい?」という何気ない問いかけに焦点を当てて、科学的根拠にもとづいて一緒に見ていきたいと思います。




「どれくらい?」は数の入口

子どもが「たくさん食べた」「すぐ終わった」「早くできた」と言ったとき、保護者の方が「どれくらい?」と問い返す。

実はこのやりとりが、数感覚を育てる出発点になります。


数の研究では、人は生まれながらに「多い/少ない」「長い/短い」といった感覚をもっていますが、それを“数”として扱えるようになるには、言葉で数量を表す経験が必要だとされています(Gelman & Gallistel, 1978;Carey, 2009)。

つまり、「どれくらい?」と聞かれて「3分くらい」「10個くらい」と答えることが、感覚を数に変換する練習になっているのです。



家庭での「数の会話」が将来の算数力を左右する

発達心理学者のLevineら(2010)は、家庭で保護者が「どれくらい」「あと何個」「いくつある?」といった数量表現を使う頻度を調べ、その家庭の子どもたちを数年後に追跡しました。

すると、そうした会話が多い家庭の子どもほど、「数系列」「部分と全体」「数量比較」といった課題で有意に高い成績を示したのです。

つまり、家庭内での「数トーク(number talk)」の量と質が、その後の数学的思考の発達を予測していたということです。




「比較」や「見積もり」が“応用力”を育てる

数の経験には2種類あります。ドリルのような「形式的経験」と、生活の中で数を扱う「非形式的経験」です。

研究では、後者──つまり「生活の中で数を比較したり見積もったりする経験」のほうが、応用的な算数力を伸ばすことが確認されています(Skwarchuk, Sowinski, & LeFevre, 2014)。


たとえば次のような場面です。


・「昨日より早く出られたね。どれくらい早かった?」

・「お皿に入れたぶどう、いくつくらい食べたかな?」

・「今日はたくさん歩いたね。どれくらい歩いたと思う?」

・「あとどのくらいで終わりそう?」

・「このお菓子、ふたりで分けたらいくつずつになるかな?」


どれも、正確な答えを求めるものではなく、“見立て”を言葉にする練習です。

こうしたやりとりを重ねるうちに、子どもは自然と「数で考える」回路を使うようになります。




「見立てる」ことを肯定する

心理学者Barnerら(2009)は、子どもが「あいまい語(たくさん・ちょっと)」を「数詞(3、5、10)」に言い換える経験を重ねるほど、数の見積もり力(approximate number sense)が高まると報告しています。

つまり、正確でなくても“だいたい”を数で表す練習が、数感覚の精度を上げていくのです。

このとき大切なのは、「おおよそでいいよ」という安心感。

正確さを求めるよりも、「3分くらいって思ったんだね」と受け止めてあげることが、数字への抵抗感を減らします。




不安を減らす“やさしい数の会話”

数字に苦手意識を持つ子の多くは、「間違えたくない」という気持ちが先に立っています。

この“算数不安(math anxiety)”は、早い子では小学校低学年から見られます。

しかし、家庭のように正解を求めない「数量の会話」は、その不安を引き起こさずに数の操作経験を積ませる安全な場になります(Ramirez et al., 2013)。

「どれくらい?」と聞かれると、子どもは自分なりの見立てを言葉にします。

それを否定せず「そう思ったんだね」と受け止めることが、数字への親近感と自信につながっていくのです。




まとめ

「どれくらい?」と聞くことで、子どもは“感覚”を“数”で考えるようになります。

これは、計算力そのものではなく、数字に親しみを持つ感覚を育てる行為です。

正確さよりも、「数で考える」ことを楽しめる環境こそが、のちの算数の土台を作っていくのだと思います。




参考文献

Carey, S. (2009). The Origin of Concepts. Oxford University Press.

Gelman, R., & Gallistel, C. R. (1978). The Child’s Understanding of Number. Harvard University Press.

Levine, S. C., Suriyakham, L., Rowe, M. L., Huttenlocher, J., & Gunderson, E. A. (2010). What counts in the development of young children’s number knowledge? Developmental Psychology, 46(5), 1309–1319.

Skwarchuk, S.-L., Sowinski, C., & LeFevre, J. (2014). Formal and informal home learning activities in relation to children’s early numeracy and literacy skills. Journal of Experimental Child Psychology, 121, 63–84.

Barner, D., Libenson, A., Cheung, P., & Takasaki, M. (2009). Cross-linguistic relations between quantifiers and numerals in language acquisition. Cognition, 111(1), 1–17.

Ramirez, G., Gunderson, E. A., Levine, S. C., & Beilock, S. L. (2013). Math anxiety, working memory, and math achievement in early elementary school. Journal of Cognition and Development, 14(2), 187–202.





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