

コ ラ ム
2025年10月27日
― その一言が子どもの“自己イメージ”をつくる ―
「この子、あまり集中力がなくて……」
「短気なところがあるんです」
「うちの子、人前で話すのが苦手で……」
――お子さんを紹介されるとき、そんな言葉を耳にすることがあります。
おそらく保護者の方に悪気はなく、謙遜や気遣いのつもりで言葉を添えているだけでしょう。
けれど、その一言が「子ども自身の自己認識」を形づくってしまうことがあります。
言葉が“自己イメージ”をつくる
心理学では、自己概念(self-concept)と呼ばれる考え方があります。これは「自分とはこういう人間だ」というイメージのことです。
米国の心理学者カール・ロジャース(Rogers, 1959)は、人は周囲から与えられる評価や言葉を通して自己概念を形成すると述べています。
特に幼少期は、自分を客観的に見る力(メタ認知)がまだ発達していません。そのため「親や先生が言うこと」がそのまま“自分の姿”として心に刻まれやすいのです。
「親の言葉」は、子どもの“鏡”になる
たとえば親が「うちの子は飽きっぽいところがあって」「すぐ諦めるタイプでね」と言えば、子どもは「自分は粘り強くない人間なんだ」と受け取ります。
こうした“言葉の刷り込み”は、心理学的に「ラベリング効果(labeling effect)」と呼ばれます。
社会心理学者Rosenberg(1979)は、他者から与えられたラベル(呼び名・評価)は自己概念に影響し、それに一致する行動を取る傾向があると指摘しています。
つまり「すぐ諦める」と言われ続けた子は、本来の性格よりも“諦めやすい自分”を演じてしまうようになるのです。
自己評価に合わせて人は行動する
一度形成された自己概念は、その後の行動を導く“無意識の地図”になります。
たとえば――
【「努力が続かない」と思っている子】
宿題に向かう → 途中で飽きる → 「やっぱり自分は続かない」と感じる → 次も早く諦める
【「最後までやりきれる」と思っている子】
宿題に向かう → 集中が切れても「あと少し」と粘る → 達成できる → 「自分はやればできる」と実感する
行動心理学では、これを「自己成就予言(self-fulfilling prophecy)」と呼びます(Merton, 1948)。
“自分はこういう人間だ”という思い込みが、実際の行動を変え、最終的にその通りの結果を生むのです。
子どもの前で「レッテル」を言わない勇気
日常での会話は、子どもにとって“世界の定義”です。「飽きっぽい」と言えば、子どもは「自分はそういう人間なんだ」と受け取ります。
一方で、「最後まで考えようとしていたね」「前より長く集中できたね」と声をかけられた子は、自分の中に“伸びる力”があると感じられます。
「できない」ではなく「いま練習中なんだね」と言い換えるだけでも、子どもの自己像は少しずつ変わっていきます。
子どもの自己認識は、周囲の“言葉”によって形づくられる。だからこそ、何気ない一言ほど、意識して選びたいものです。
まとめ
親の謙遜は、時に子どもにとって“自己評価の呪い”になることがあります。でもその逆もまた真実で、親の一言が“自信の種”になることもあります。
言葉は、子どもの未来を縛ることも、解き放つこともできる。
日々の中でつい出てしまう何気ない紹介の言葉。その一言を、少しだけ見直してみませんか?
参考文献
Rogers, C. R. (1959). A Theory of Therapy, Personality, and Interpersonal Relationships.
McGraw Hill.Rosenberg, M. (1979). Conceiving the Self. Basic Books.
Merton, R. K. (1948). The Self-Fulfilling Prophecy.
Antioch Review.Harter, S. (1999). The Construction of the Self: A Developmental Perspective. Guilford Press.
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